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Noto、ヒラギノ、游ゴシック…定番フォントの名前の由来を調べてみた

フォント名は、ただのラベルではありません。

Noto Sans JP、ヒラギノ角ゴ、游ゴシック体、Helvetica、Futura、Avenir。毎日のように見かける名前でも、由来まで知っているものは意外と少ないのではないでしょうか。

名前の由来を調べてみると、フォント名には大きく分けていくつかのパターンがあることがわかります。

  • 目的をそのまま名前にしたもの
  • 地名から付けられたもの
  • 制作者の名前から付けられたもの
  • 時代感や思想を込めたもの
  • ブランド名・シリーズ名として育ったもの

この分類を知っておくと、フォント名を見るだけで何を大事にして作られた書体なのかが分かりやすくなります。

この記事では、定番フォントの名前の由来を役立つ豆知識として紹介します。

フォント名には、設計の考え方が出る

フォント名には思っている以上に設計思想が出ます。

たとえば、文字が表示できないときに出る四角い記号は、見た目から「豆腐」と呼ばれることがあります。Noto は、その豆腐をなくすという考え方と関係のある名前です。
ヒラギノ は、京都の地名「柊野」に由来します。
Futura や Avenir は、どちらも「未来」を感じさせる名前です。

一方で、Garamond、Bodoni、Baskerville のように、制作者の名前がそのまま書体名として残っているものもあります。
人名が付いたフォントは、そのデザイナーや印刷史の文脈と一緒に語られることが多いです。

つまりフォント名からは、由来・用途・思想・歴史を読み解くことができるのです。

Noto:文字が出ない「豆腐」をなくすための名前

Noto は、名前の由来を知ると印象が変わるフォントです。

パソコンやスマートフォンで文字がうまく表示できないとき、白い四角い箱のような記号が出ることがあります。日本語では「豆腐」と呼ばれることがあり、英語圏でも同じように tofu と呼ばれます。

Notoは、この「tofu」をなくす、つまり表示できない文字をできるだけ減らすことを目指したフォントファミリーです。Noto公式ドキュメントでは、Noto にはラテン語で「書く」「記す」といった意味があること、そして no tofu の略でもあることが説明されています。

Google Workspaceの公式ブログでも、Notoは1,000以上の言語と150以上の文字体系をサポートすると紹介されています。

この由来を知ると、Noto Sans JP の見え方が少し変わります。
単に「無料で使える日本語フォント」ではなく、世界中の文字をできるだけ欠けずに表示するためのプロジェクトの一部だと分かるからです。

デザイナー目線で見ると、Notoは「個性の強いブランドフォント」というより、「多言語で破綻しにくい公共性の高いフォント」と考えると扱いやすくなります。

ヒラギノ:京都の地名「柊野」から選ばれた名前

ヒラギノ は、日本のデザイナーにとって身近なフォント名です。
主にmacOSやiOSで使用されていて、Web制作でも長く使われてきました。

ヒラギノフォント公式noteによると、「ヒラギノ」は京都市北区の地名「柊野」に由来します。

ただし、単にその場所にゆかりがあったから名付けられたわけではありません。
開発時に京都の地名を集め、ヒラギノのコンセプトである「スマートでスタンダード、現代的」なイメージに合う名前として「ヒラギノ」が選ばれた、と説明されています。

名前は地名由来ですが、選ばれた理由は地理そのものではなく、響きとイメージです。柊野という漢字の佇まい、ヒラギノというすっきりした音の感じが、書体の印象と合っていたのだと考えると、名前にデザインの意図を感じます。

ヒラギノは、名前からも「強い主張」より「長く使いやすい標準感」が伝わります。
フォント名と書体の性格をあわせて考えやすい例です。

游ゴシック:由来を断言しにくいからこそ、ブランド名として見る

游ゴシック体や游明朝体の「游」は、ぱっと見ただけで印象に残る漢字です。

今回確認した範囲では、游という字そのものの由来を公式に説明している情報は確認できませんでした。
ただ、游ゴシック体や游明朝体は「字游工房」による書体なので、游は字游工房の書体ブランドを示す名前として命名されたと私は認識しています。

游ゴシック体の特徴は、長文でも読みやすいスタンダードなゴシック体であることです。
モリサワの書体見本では、字面を小さめに設計し、文字間にゆとりを持たせることで、小さいサイズでも文字同士が干渉しにくいと説明されています。

この特徴を考慮すると、游ゴシックの名前は派手なキャッチコピーではなく、落ち着いた本文書体のブランドとして捉えるとしっくりきます。

由来がはっきり語られているフォントもあれば、ブランド名として定着しているフォントもあります。
游ゴシックは、後者として見るのが自然です。

Helvetica:元々は「Neue Haas Grotesk」だった

欧文フォントで名前の由来を知っておきたいものに、Helvetica があります。

Helveticaは、1957年にスイスのHaas Type Foundryで作られ、もともとは Neue Haas Grotesk という名前でした。Neue は「新しい」、Haas は鋳造所名、Grotesk はサンセリフ書体の歴史的な呼び名です。

その後、国際的に展開しやすい名前として Helvetica に改名されました。
Helveticaはラテン語でスイスを指す Helvetia に由来します。

つまりHelveticaは、ざっくり言うと「スイスに由来する名前を持つ書体」です。

この由来は、Helveticaの印象ともよく合っています。
中立的、明快、清潔、合理的。そうしたイメージは、スイス・スタイルや国際タイポグラフィ様式の文脈とも重なります。

名前の変化も含めて見ると、Helveticaは「書体そのものの名前」だけでなく、「スイス的なデザイン観を世界に届けるための名前」だったとも言えます。

Futura:未来を名前にした幾何学的サンセリフ

Futura は、名前からして未来感があります。

Futuraは、Paul Rennerによってデザインされ、1927年にリリースされた幾何学的サンセリフです。MonotypeのFutura Now紹介では、FuturaはPaul Rennerのオリジナルデザインをもとに再デジタル化された、代表的な幾何学的サンセリフとして説明されています。

名前の Futura は、英語の future と同じく「未来」を連想させる言葉です。

円や直線を感じさせる形、装飾を抑えた構造、モダンな印象。そうしたデザインを見ると、Futuraという名前にも納得感があります。

ただし、Futuraは冷たいだけのフォントではありません。幾何学的でありながら、独特の温かさやクラシックさも持っています。だからこそ、何十年も経った今でも、ファッション、映画、広告、ブランドロゴなどで使われ続けています。

「未来」と名付けられたフォントが、長い時間を経てクラシックになっている。この時間差も、フォント名を知る楽しさのひとつです。

Avenir:フランス語で「未来」

Avenir も、名前の意味を知ると印象が変わるフォントです。

AvenirはAdrian Frutigerによってデザインされ、1988年にリリースされました。MonotypeのAvenir Next Worldの説明では、AvenirはFrutigerが1988年にデザインした世界的に有名なフォントファミリーとして紹介されています。

Avenir はフランス語で「未来」という意味です。

FuturaとAvenirは、どちらも未来を感じさせる名前を持ち、どちらも幾何学的サンセリフの文脈にあります。
ただ、印象は少し違います。Futuraがより記号的で強い未来感を持つのに対して、Avenirは幾何学的でありながら少し人間的で、本文やUIにもなじみやすい柔らかさがあります。

同じ「未来」でも、名前の響きと文字の表情で印象は変わります。これは、フォント選びで大事な感覚です。

Garamond / Bodoni / Baskerville:人名がそのまま歴史になる

セリフ書体には、制作者の名前がそのままフォント名になっているものが多くあります。

Garamond は、16世紀フランスの活字制作者 Claude Garamond に由来する名前です。
現代のGaramond系フォントは多くの復刻や解釈を含みますが、名前としては歴史的な人物に結びついています。

Bodoni は、イタリアの印刷者・活字制作者 Giambattista Bodoni に由来します。Britannicaでも、Bodoniは現在も使われる書体名として残っていることが説明されています。強いコントラストと端正な印象を持つ、いわゆるモダン・ローマン系の代表です。

Baskerville は、イギリスの印刷者 John Baskerville に由来します。Britannicaでは、Baskervilleは彼の名を冠した卓越した書体として紹介されています。

人名由来のフォントは、単なるデザイン名ではなく、書体史の人物とつながっています。名前を知ることは、そのフォントがどの時代のどんな思想から来ているのかを知る入口になります。

DIN:規格の名前がそのままフォント名になることもある

フォント名には、人名や地名だけでなく、規格や組織名が由来になっているものもあります。

代表的なのが DIN です。DINはドイツの規格協会である Deutsches Institut für Normung に関係する名前として知られています。

DIN系のフォントは、道路標識や工業規格のような、機能性・視認性・無駄のなさを連想させます。名前からも「情緒」より「規格」「技術」「システム」の印象が伝わります。

このタイプのフォント名は、ブランドデザインでも使いどころがはっきりしています。精密、機械、インフラ、スポーツ、モビリティ、テック系の印象を作りたいときに相性がよいことがあります。

名前の由来を知ると、フォント選び方がちょっと変わる

フォント名の由来を知っても、すぐにデザインが上手くなるわけではありません。

でも、選ぶときの言葉は増えます。説明に厚みが出ます。

Notoなら「多言語で欠けにくい、公共性のあるフォント」。
ヒラギノなら「京都の地名から選ばれた、スマートで現代的な標準感」。
游ゴシックなら「字游工房の本文志向のブランド」。
Helveticaなら「スイス的な中立性」。
FuturaやAvenirなら「未来を意識した幾何学的サンセリフ」。
GaramondやBodoni、Baskervilleなら「人名と歴史に由来するセリフ書体」。

こうした背景を知ると、フォントを選ぶときに「なんとなく好き」だけでなく、「なぜこの雰囲気に見えるのか」を説明しやすくなります。

デザインでは、フォントの見た目だけでなく、その名前が持っている記憶や文脈も印象を作ります。

フォント名は、書体のプロフィールです。
名前の由来を知っているだけで、選び方が少し変わってくるはずです。


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